キャンペーンの歴史と経過

韓国

韓国のフェミニストはすでに立ち上がり、辞書を書き換えた!次は、私たちの番です。

みなさん、実は韓国でも、広辞苑キャンペーンと似たようなキャンペーンが、数年前にあったことをご存知でしょうか。

2015年、韓国のフェミニストたちは、韓国でもっとも権威ある辞書の「フェミニズム」と「フェミニスト」の定義の改訂を求めて、立ち上がり、2017年にキャンペーンは成功しました。

こちらは、明日少女隊の韓国人隊員キム・ミョンスン(金明淳)が、この一連の辞書の改訂についてリサーチした記事です。

一つのフェミニスト団体の呼びかけから始まり、、、

高校生からシニア層までの世代を超えたフェミニストたちが、ネットで、路上で、手を取り合って行動し、、、

それぞれの立場から世論を盛り上げ、市民の声に後押しされて辞書の定義が少しずつ変わっていくのが印象的です。

どうぞご一読ください。

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↑2017年8月現在のフェミニズムの定義の画像。

韓国の標準国語大辞典は、国立国語院(The National Institute of the Korean Language)という国の機関が発行している韓国内でもっとも権威のある辞書です。

この辞書では、2015年の6月まで、フェミニズムの定義を掲載していませんでした。また、フェミニストの第2の定義として、「女性に優しい男性」を掲載していました。

<2015年6月までの定義>

フェミニズム:掲載なし

フェミニスト

1:性の平等や女性の権利のために声をあげる人

2:女性を尊敬する人や、女性に優しい男性

2015年1月21日、韓国女性団体連合(Korean Women’s Association United)は韓国の標準国語大辞典にフェミニズムとフェミニストの定義を修正するよう、韓国の国立国語院に意見書を送りました。

ちょうどその頃、韓国ではフェミニズムの定義への関心が高まっていました。というのも、高校生の男子生徒キムが、イスラム国(IS)に参加する前に、彼のツイッターに「フェミニストが嫌い」と書き込んでいたからです。

韓国女性団体連合は、誤解を招くようなフェミニストの定義が辞書にのっているために、フェミニストに対する偏見を悪化させ、それがインターネットを含む韓国社会全体に広がっていると主張しました。

2015年6月、標準国語大辞典は韓国女性団体連合の意見や世論の盛り上がりを受け、辞書をこのように書き換えました。この改訂により、これまでなかったフェミニズムの項目ができました。

<2015年6月から2015年末までの定義>

フェミニズム:性別による政治的、経済的、社会的、文化的差異をなくそうという思想

フェミニスト

1:フェミニズムを支持したり議論する人

2:女性に優しい男性という比喩

2015年6月の改訂では、フェミニズムの定義は「性別による政治的、経済的、社会的、文化的差異をなくそうという思想」でしたが、韓国女性団体連合は、

ジェンダーに起因する「差異」をなくすとするのは間違っており、 「差別」に修正するべきだと主張しました。

また、フェミニストの第二の意味には「女性に優しい男性」に「比喩」という表記が加わったものの、依然として含まれていました。

当時、国立国語院の役員は、「現に私たちの社会では、『女性に親切な男性』として使用される事例がある。したがって、実際の使用法を辞書の定義として含めることは自然である」と述べていました。しかし、このような使用法は、1970年代から80年代の新聞にしか登場しないため、これらの例は非常に限られているという批判があがりました。

韓国女性団体連合のヤン・イ・ヒョンギョン政策ディレクターは、

「フェミニズムは時間とともに変化し、その定義も変わっていきます。ですから、時代の変化に合わせて新しい定義を追加する必要があるのです」

とコメントしました。

そして、次のように付け加えました。「特に2016年には、韓国社会でフェミニズムの議論が広がり、国民の理解が高まりました。フェミニズムやフェミニストの定義も、より高い精度が求められています。国立国語院は、国民の要求を受け入れ、フェミニズムの定義を修正しなければならないのです。」

東亜大学校の文学部教授であるクォン・ミョンア教授は、

「まず、「女性に親切な男性を表す比喩」というのは間違った定義です」

と主張しました。 「『フェミニスト』は外国語なので、他の国でどのように定義され、理解されているのかを理解し、それらを参照する必要があります」とコメントしました。

2015年7月、韓国女性団体連合は、フェミニズムとフェミニストの誤った定義を修正するためのウェブ用のニュース画像を制作、SNSで大きな注目を集めました。

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↑辞書のフェミニズムとフェミニストの定義の改訂を求めて抗議活動をする男子学生

また、このニュースに触発され、言語学を大学で学び、環境と人権問題に関心があるという男子学生が、国立国語院の建物の前で、単独で抗議を行うという出来事もありました。

これは、辞書のフェミニズムとフェミニストの定義の改訂を求めて、

国立国語院の建物の前でジャージャーメンを食べるというとてもユニークで平和的な抗議

で、5時間かけて行われたとのことです。

韓国国内のフェミニズム系のニュースメディアは、この問題を2015年の国会で扱わなければならない最も重要な問題の1つとして選びました

結局国会では議論されなかったものの、

世論の後押しを受け、2015年末、標準国語大辞典のフェミニズムの定義は「性別による政治的、経済的、社会的、文化的差別をなくそうという思想」

と書き換えられました。

<2015年末から2017年2月21日までの定義>

フェミニズム:性別による政治的、経済的、社会的、文化的差別をなくそうという思想

フェミニスト

1:フェミニズムを支持したり議論する人

2:女性に優しい男性という比喩

また、2017年2月21日、標準国語大辞典は、

フェミニストの第2の定義に過去の時制を加え、「かつては女性に優しい男の比喩としても使われた」

としました。

<2017年2月21日から現在の定義>

フェミニズム:性別による政治的、経済的、社会的、文化的差別をなくそうという思想

フェミニスト

1:フェミニズムを支持したり議論する人

2:かつては女性に優しい男の比喩としても使われた

このように、韓国では、フェミニストの運動が、世論を動かし、代表的な辞典の「フェミニスト」と「フェミニズム」の定義をより正確なものに書き換えることに成功しました。

日本

広辞苑第7版の「フェミニスト」と「フェミニズム」の定義への明日少女隊の見解

2018年1月12日、広辞苑第7版が出版されました。

広辞苑には「フェミニズム」と「フェミニスト」の記載があり、今回、どちらも改訂されました。ここでは、まずは「フェミニズム」の項目から見ていきます。

フェミニズムの新しい定義について

フェミニズム【feminism】女性の社会的・政治的・法律的・性的な自己決定権を主張し、性差別からの解放と両性の平等とを目指す思想・運動。女性解放思想。女権拡張論。

<嬉しいニュース!>

フェミニズムの説明に「平等」という言葉が入りました!

私たちは、広辞苑編纂者の方が、私たち市民の声を聞き、声を拾ってくださったことに心から感謝します。

今回、広辞苑の定義にフェミニズムの目的と理念である「平等」という言葉が入ったことは、フェミニズムにとって非常に大きな前進であったと思います。

私たちが調べた限りでは、大辞林第3版(2006)のフェミニストの定義に『不平等の解消を唱える人』という表記があるものの、フェミニズムの定義に「平等を目指す」と入るのは日本で初めてのことではないかと思います。

また今回、「性差別からの解放」という言葉も入りました。

今回の定義では、性による差別があることをはっきりと伝え、フェミニズが差別からの解放や、性の平等というゴールに向かうという思想や運動であることが明らかになりました。

フェミニズムの運動の理由やゴールが明らかになり、言葉の意味をより正確に伝える定義になったと思います。

今後は、広辞苑の「フェミニズム」の定義を引用して「フェミニズムは女性支配的な社会を作るための思想」と考える人は少なくなるのではないでしょうか。

<残念な点>

性的少数者への配慮のなさ

フェミニズムの定義に、「性差別からの解放」や「平等」という言葉が入ったのは大変嬉しかったものの、

「全ての性の平等」ではなく「両性の平等」となったことを残念に思います。

フェミニズムの学問や実践の場では、すでに、男や女と区別できない方が存在することが明らかになっており、その方達の生きにくさや、その方達への社会からの偏見やサポートのなさが問題となっております。

フェミニズムは、排他的な学問や運動としてではなく、寛容で包括的な形で発展し、より多くの人と寄り添えるよう歩んできた学問・運動です。そのフェミニズムの大きな功績を、今回の定義では汲めていないと感じました。

性的少数者への偏見をなくし、みんなが幸せになる社会の実現のためには、辞書の表記も、変わる必要があると考えます。

<参考>「男女」か「すべての性別」か

フェミニズムの定義については以上です。


フェミニストの新しい定義について

フェミニスト【feminist】①女性解放論者。女権拡張論者。②女に甘い男。女性尊重を説く男性。坂口安吾、市井閑談「このおやぢの美点は世に稀な―であることである。先天的に女をいたはる精神をもち」

<嬉しいニュース!>

特にありません。

<残念な点>

私たちは、今回の新しいフェミニストの定義をとても残念に思いました。

一番ショックだったのは、私たちが、削除、もしくは誤用と明記して欲しいと訴えた「俗に、女に甘い男」が、より問題のある形となったことです。

フェミニストについての解説文、全体の文字数の8割が「男」についての記述に

①女性解放論者。女権拡張論者。15文字。

②女に甘い男。女性尊重を説く男性。坂口安吾、市井閑談「このおやぢの美点は世に稀な―であることである。先天的に女をいたはる精神をもち」』67文字。

まず、先に、文字数についてです。フェミニストの説明文全体の文字数は82文字でした。そのうちの実に67文字、つまり全体の8割が、「女に甘い男」という男性についての説明に割かれています。

フェミニストはあたかも男性であることが前提のよう

これまでも、広辞苑のフェミニストの定義を読み、フェミニストは男性を指すのではないかと勘違いをする方が見受けられました。しかし、今回の改訂で、そのように誤解することが、今後増えることが予想されます。

「女に甘い男」というのは明らかに男性のみを指し、しかも、国内で一般的に使用されているフェミニストの定義とは異なる用法の言葉です。

さらに、第6版で見られた「俗に」という言葉も削られました。これは、公式に「女に甘い男」という用法に太鼓判を押す行為に他なりません。

坂口安吾の引用の必要性

今回のフェミニストの第二の定義には、坂口安吾の『市井閑談』の一文の引用がつけられました。これは、第6版までにはなかったものです。

ここで引用されている坂口安吾の市井閑談は、1939年(昭和14年)、実に79年も前に書かれたものです。これは、女性に参政権もない時代の文献です。

公共性の非常に高い辞書が、社会的に抑圧された女性という集団の人権向上のための運動の、足を引っ張るような定義を、十分な説明もなく載せ続けることに疑問を感じます。

「女に甘い男」というのは、蔑視の意味を含みます。

女に甘い男と呼ばれて名誉に感じる人は少ないのではないでしょうか。女に甘いかどうかを決めるのは、男性的な視点です。この言葉には「本来ならば女性には厳しくするべき」という、女性と男性は対等ではないという意識がにじみ出ています。これは、男性的な視点によって作られた言葉であるのは明らかです。

それどころか、女に甘い男は、実際に性別の平等を求めるフェミニストではありません。

例えば、私たちの身近なところでも、「女に甘い」と周囲から認識されている男性のセクハラが見過ごされたり、男性本人が「女に甘いことをしている」という認識で、女性差別をしていることは、よくあることです。


女に甘い男と、フェミニストは全く関係がないのです。

フェミニストたちは、長年、女性を抑圧する男性社会と戦ってきました。フェミニストたちが戦ってきた男性に有利な社会とは、男性に生まれたというだけで、学校でも、会社でも、家庭でも男性に有利に働くように長年にわたって作られた強固なシステムです。そこには力の構造があり、多くの女性は、声をもあげられないという状況が続いています。

このような深刻な性差別が社会に蔓延している中で、一方的な男性的視点で「女に甘い」男性を、フェミニストと呼ぶお墨付きを与えることは、フェミニズムにとって明らかに不利益となるでしょう。

<参考>
女に甘い男の定義が呼ぶ混乱1:ツイッター
女に甘い男の定義が呼ぶ混乱2:ポップカルチャー:井上陽水からビヨンセ


「女権拡張論者」について

誤解を生み続けている「女権拡張論者」という言葉が残ったことも残念でなりません。「性差別からの解放」や「平等」という言葉が入った上で、「女性解放論・女権拡張論」と表記されたフェミニズムの項目とは違い、フェミニストの項目では、フェミニストが何者なのかが伝わりにくい表現であると感じます。

BuzzFeedの2017年10月10日の記事によれば、岩波書店・辞書編集部の担当者は、このように発言したとのことです。

『そもそも国語辞典は「学術的に決まった定義だけでなく、世の中でその言葉がどう使われているかに依っている」といい、フェミニストの説明に「俗に〜」という言葉がついているのもそのためだという。』


さて、「女権拡張論者」「女に甘い男」は、どれほど世の中で使用されているのでしょうか?

明日少女隊には、日本各地の大学で、ジェンダー学を専攻する学生隊員がたくさんいます。私たちは、それぞれが日常的に日本のフェミニストの文献を読み、日本のフェミニストたちの企画するレクチャーなどに参加していますが、

誰一人として、自分のことを「女権拡張論者」と名乗る人は見たことがありません。一方で、フェミニストと名乗る人は、年々増えているように思います。しかし私たちは、彼女たちが「フェミニストって何?」と聞かれた時に「女権拡張論者のことだよ」と答えた例は見たことがありません。性別の平等を求めているとか、女性の権利の向上をサポートしているとか、そのような表現を多く聞きます。

79年前の坂口安吾の記述を、実際に使われている用法の例として記載するというのであれば、

むしろ、実際に現在、「女権拡張論者」として使われている用例を見てみたいと思いました。

グローバル化と国語辞典の関係

例えば、日本の辞書でも、フェミニストの「女に甘い男」の定義が、誤解を生まないようにとの配慮が見られるものもいくつかあります。

「女に甘い男」が、日本独特の使い方であることを明記した辞書

旺文社国語辞典 第11版
「②女性をたいせつに扱う男性。俗に、女性に甘い男。参考 ②は和製英語」

三省堂 現代新国語辞典 第5版

❷女性をたいせつにするひと。女性に親切な男。注意②は日本語独特の使い方。

大辞泉第一版(1995)
②女性を大切に扱う男性。♦英語で②の意味はgallant


そもそも私たちは、フェミニストの「女に甘い男」の定義に関しては削除か誤用と明記することを求めています。それは、辞書の公共性を考えた時に、誤用と明記せずに「女に甘い男」という定義を記載し続ける時、女性という集団の不利益が、公共の利益を上回ると考えるからです。

しかし、このように、「女に甘い男」が、日本独特の使い方であることを明記するだけでも、それをしないのとでは、読み手にとって大きな認識の差を生むと思います。

「女に甘い男」という定義が日本独自のものであることがわかれば、海外ではどのような使われ方をしているのか、興味がわく人もいるかもしれません。

広辞苑は、約10年に一度、改訂作業があるので、第7版は、2018〜2028年くらいをカバーする定義です。

広辞苑は国語辞典ということで、あくまで日本での用法をのみを考慮するという姿勢であることが伺えますが、日本も、グローバル化の波に呑まれて久しい昨今、特に外来語に関しては日本独自の用法と、国際的に使用されている用法を区別し、明記することの必要性は高まっているのではないでしょうか。

先日は、今年の東京23区の新成人の8人に1人が外国人であるというニュースがありました。また、海外へ移住する日本人は増加し、海外から日本に訪れる外国人も増加しているというニュースも見聞きします。

辞書の利用者には学生が多いと聞きます。若者は、このグローバル化の真っ只中で、なんとか自分の人生を切り開こうと辞書を手にとります。

フェミニストの定義を「女に甘い男」「女権拡張論者」と認識した若者が、国際的な舞台で直面する壁を、ぜひ想像していただきたいと思います。

<参考>国際的なフェミニズムの流れと広辞苑の定義について書かれた記事


<10年後の日本>

今回の改訂では、フェミニズムの項目で「平等」と「性差別からの解放」という言葉が定義に入り、フェミニズムをより理解しやすい定義になりました。

このような大きな前進があったことをとても誇らしく思います。また、この変化は、この活動を応援してくださった一人一人の声が届いた成果であると思います。本当にありがとうございます。

しかしながら、フェミニズムの項目に「すべての性別」が入らなかったこと、またフェミニストの項目は、以前よりも問題のある定義になってしまったことは残念です。

広辞苑の改訂は約10年に一度行われるとのことです。ですので、

私たちは、あと10年、この署名運動を続けることにしました。

今から10年間の間に、広辞苑は改訂作業は行われないかもしれません。

しかし、日本の他の辞書の改訂はあるかと思います。

一つでも多くの辞書が、フェミニズムとフェミニストの定義を見直し、より包括的でわかりやすい定義に書き換えられて行くことに期待したいと思います。

そのためには、このキャンペーンを、広辞苑だけに向けたものではなく、フェミニズムとフェミニストの定義を考えるあらゆる人のためのものとして、私たちは今後もこの問題について発信して行こうと思います。

引き続き、応援&ご署名をお願いいたします。

拝啓 広辞苑様、フェミニズムが「性別間の平等」を願う思想であると書いてください

10年後の日本は、一体どのような社会になっているのでしょうか?
今よりも平等で、すべての人がよりハッピーに暮らせる社会を夢見て。

2018年1月13日

明日少女隊 

(文章:尾崎翠、河崎なつ、山室軍平)